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伊福部崇からみた長沢美樹

10年の付き合いになる長沢美樹について書いてくれと言われて気がついた事がある。

 

何も書く事がないのである。

 

僕は、長沢美樹に対する感情がないのだ。

もちろん大好きな仕事仲間だし、すばらしい役者である事は認識しているはずなのだが

箇条書きで表されるいくつかの当たり前の言葉以外に

僕はどうやら彼女に対して語る言葉を持ち合わせていないようだ。

何故だろう?

 

長沢美樹と出会ったのは、10年以上前、文化放送のスタジオだった。

今度、僕が構成を担当させていただく「ラジオビッグバン」というラジオ番組の

パーソナリティを務めてくれる女性声優を紹介すると、

当時文化放送A&G事業部の部長だった片寄好之氏に連れてこられたスタジオにいたのが、

長沢美樹だった。

彼女は、スタッフとにこやかに談笑しながら

「結婚したいんですよ。でも、もうすぐ30歳になっちゃいますよ」

といった内容の話をしていた。

僕は、初対面であったのにもかかわらず、彼女の気さくそうな雰囲気を察し

「そうですね。30歳になったらおしまいですもんね」

と話したのを覚えている。

彼女は「ちょっとやめてくださいよ?でも、私、すぐ結婚しますから!」

と笑顔で答えていた。

 

これは先日のことだが、

ヘロヘロQカムパニー第20回公演「八つ墓村」を観劇させていただき、

そのクオリティの高さに大変感動し、楽屋に挨拶をしに行ったときのこと。

長沢美樹は、その芝居のラストに全身が壊死したメイクで登場したのだが、

僕がそれに対して

「長沢さん、ラストだけノーメイクでしたね」

と冗談で話したところ、長沢美樹は

「メイクしてました! 普段はこんなに素敵です!」

と答えた。するとその隣にいた小西克幸氏が

「あのメイクした事で逆に、年齢をごまかせてますよね」

と続けた。更に僕が

「40超えると大変ですね」と言うと

「まだです! まだ38です!」

と長沢美樹はすぐさま笑顔で返した。

 

要するに何も変わっていないのである。

たぶん僕の中では、長沢美樹は、現在もまだ第一印象なのだろう。

初対面の人に対するコラムを書けと言われても土台無理な話だ。

だから僕は、長沢美樹を語る事が出来ないのである。

 

しかし、その変わらない印象こそが、長沢美樹の魅力なのだといえよう。

当時の僕が初対面の時に感じた、誰とでも気さくにコミュニケーションが取れ、

誰も傷つけない。

よく見れば美人のはずだが、何も感じない。感じさせない。

そういった印象が、何ひとつ揺らぐこともなくこの10年という時を経てきているのだ。

表裏がない性格と言ってしまえば、簡単なのだが、

単純にそれだけでは、10年の時を超えることは不可能だろう。

不思議である。

僕は、それが長沢美樹の何事にも代え難い魅力なのだと思うのだ。

 

きっとこれからも僕は、長沢美樹と色々な場面で付き合っていく事になるだろう。

しかし、きっと僕らの関係性は何も変わらない。

気がつけばきっと長沢美樹は同じ場所にいて同じように

「来年は結婚しますから!!!」

と、僕に笑顔で語りかけてくれるに違いない。

そして僕は、間髪入れずに

「無理ですよ」と答える。

 

この10年にわたって、続けているこの会話。

そして、それがいつまでも色あせることなく出来る唯一の仲間。

僕は改めて、それをとても愛しく思うのである。

 

伊福部崇

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